シマニテ・ログ 【タビノタヨリ】LETTERS 14
神の旅路 利島編
時をかけて、一粒の祈りへ
伊豆の沖に浮かぶ
漆黒のピラミッド。利島
伊豆の海岸線へと続く、
青き海の波間から
神々が最後に創り出した
その小さくも美しい島影が
静かに浮かび上がる。

伊豆白浜を出航して始まった
三島大明神の島焼きの旅。
島を創る旅路の
最後の寄港地は
波に洗われる一輪の島、利島。
あたたかくも鮮やかな火の記憶は
やがて深い静寂へと溶けてゆく。
神々がこの険しい岩肌に遺したのは
荒ぶる大地を
なぐさめるための緑の外套
島を包む20万本もの やぶ椿

冬が訪れれば
吹きあがる潮風の中で
いのちが燃え立つような
真紅の花を咲かせる。
それは、神々が流した
最後の情熱の雫。
濡れたように光る濃緑の葉が
島の人のささやかな暮らしの灯火を
やさしく守り続けてきた。
木々が抱く実は
秋の光を吸って
やがて黄金の一滴を、この世に授ける。

人々は、
大地に寄り添うように生き
ただ、神がもたらした森の恵みを
一粒、一粒、
手のひらに拾い集める

自然に抗わず、
ただ、椿の懐に身を寄せて。
大いなる火の神話は、
時をかけて、
一粒の祈りへと重なっていく。

宮塚山の懐に、
いまも静かに息づく
三つの神々の足跡。
あの山の嶺から
今も神々は、椿のざわめきとともに
この小さな島の呼吸を見守っている。
-利島。神々の島を創る旅の終わりに。
それは、椿とともに生きる、
果て無き命の始まり。

今日も対岸へと、
その足跡の在りかを示している。

〈旅のメモ:宮塚山に宿る神々〉
一番神様・阿豆佐和気命本宮:三島大明神の血を引く若き神。苔むした原生林の奥で、島のはじまりを今も静かに伝えている。
二番神様・大山小山神社:海と山の神。その御名(大山祇命)は、三島大明神の終着駅である「三嶋大社」の主祭神。島焼きの旅を共にした、大明神の忠実な部下たちの記憶が眠る。
三番神様・下上神社:阿豆佐和気命の歩みを支えた、利島のお妃様。険しき山を下りてきた人々を、木漏れ日で優しく抱きとめる。



