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シマニテ・ログ 【タビノタヨリ】LETTERS 12

神の旅路 三宅島編

紫陽花の故郷

海を見渡しながら風に揺れる紫陽花の花々は、
さらなる物語の語り部だった。

下田を彩る紫陽花に囲まれて
凛と咲いていた一輪の花。
その足はまた別のあじさいを求めて、気づけば
城ヶ崎の海辺に咲く星々の華の前に立つ。

潮風に揺れるその姿を眺めているうちに、
花の面影は海を越え、ふと一つの島が胸によぎる。

伊豆の南に浮かぶ火の島。

ガクアジサイのもう一つの聖地。
三島大明神の足跡を今に伝えるその島こそ、三宅島である。

その花は、
ただ季節を告げるために咲いているのではない

海を越えて記憶と記憶を結ぶために
咲いているのではないか。そう思えた。

花の縁に導かれるように、
私は再び旅支度を始める。

次なる目的地は
神の旅路が息づく島、三宅島である。

その火と花が紡ぐ物語を辿るために。

雨音にほほえむ花影の島へ

東京湾を離れた船は、
夜の海を南へと進んでゆく。

甲板に立てば、
潮風の向こうに広がるのは
どこまでも続く黒い海。

やがて東の空がほのかに明るみ始める頃、
水平線の彼方に一つの島影が姿を現した。

三宅島。

今なお大地の息遣いを内に秘める火の島である。
その島には、
伊豆の海辺で出会った花が
もう一度咲いている。

ガクアジサイ。

潮風に耐えながら咲くその姿は、
下田や城ヶ崎で見た花とどこかよく似ていた。

この島には、
海風に磨かれながら受け継がれてきた
花の物語がある。

三宅常盤。

火と海に育まれながら
島の記憶を純白の花びらに映し、
人々の心に
可憐なたたずまいのままそっと寄り添い、
島の歳月を見守ってきた。

この島に咲く花が記した旅の手帖には
二つの土地の名が刻まれている。
三宅島から東京武蔵野の地、小金井へ

島の心に応えるように、
小金井からは桜が贈られ、
玉川上水の堤には海を渡った
ガクアジサイが今も咲いている
花と花が、互いの地を結ぶ使者となった。

海を隔てた二つの土地を結んだのは、
人の思いであり、
花が運んだ記憶だった。

だからきっと、
下田で見送ってくれた花も、
城ヶ崎で再会した花も、
そして今、三宅島に咲く花も、
きっとどこかでつながっている物語の続きを、
風に託している。

花はただ季節を告げるために咲くのではない。

人と人を結び、
土地と土地を結び、
時には遠い記憶までも結び合わせる。

海風がめくるもう一つの花の手帖が、
島と伊豆のはるかな物語を映し出していく。

それは、
三島大明神が海を渡ったという
神話の記憶。

花を辿れば神に至り、
神を辿れば火の島に至るのである。

火山が生んだ奇跡の花

ガクアジサイの故郷を辿る先に浮かび上がる、
三島大明神の足跡。
数多の海を越え、島々を巡った神が、
再び帰り着いたのがこの三宅島だった。

火の大地を踏み、潮風を受けながら、
神の眼はいったい何を見つめていたのだろう。

火山とともに生きる人々の営み。
火山とともに生きたいと願う人々の心。
ずっとここに、在ることを選び取った想いの強さ。

三宅常盤が風に揺れる。

噴火の記憶を抱く豊かな大地と、湧き上がる生命の泉。


荒ぶる火山の営みを耐え抜き、孤独の中で生き残った奇跡の花。
この島が育んだ奇跡のような抱擁があるからこそ、
眩いほどの純白を咲かせることができるのだろう。

その花は、
遠く離れた土地との縁を結び、
そしてまた、島から伊豆へ
伊豆から島へとつながる
遥かな神話の記憶を今へと結んでいる。

伊豆の海辺に咲く
あじさいを愛する人々が、
海を越えたこの島に咲く純白の結晶を、
同じように深く慈しみ、心の手で愛でるように。

神話が焼き出した島々の記憶は、
花の美しさを分かち合う人の心を通じて、
今も海と空を往復しながら、優しく響き合っている。

島に残されたあたたかな足跡は、
今もなお潮騒の中に
はっきりと刻まれていた。

あの水平線のかなたから、心の向こう岸へと繋がった、
かけがえのない生命の灯を、ここに宿しながら。